INAXって何気に凄いのね。

はっきり言って、馬鹿にしていたINAX。あの淵は許せないし、逝ってよし小便器をばら撒いた罪も大きいとは思う。

だけど、「INAX20周年記念デジタルアーカイブス」を見て、少し見直した。

  • サニタリーナ開発の秘話

国産第一号機の温水洗浄便器。プロジェクトXなんかを見てると、まるで「TOTOウォシュレット」が最初の商品みたいに思ってしまうが、そんなの、大嘘。
国産一号機は、伊奈から生まれたわけで。


今でも名機として語り継がれる、サニタリーナ。元々はスイス製の「クロス・オ・マット」のコピー品・・・なんだが、日本仕様に伊奈製陶が作りこんだようで、洗浄位置や水温のデータも伊奈製陶が集めたらしい。


TOTOウォシュレット開発の際、「肛門の位置」を測るために悪戦苦闘し、最終的に、社員の協力を得、便器の中央に針金を通し、付箋を貼っていただく、という手段で位置のデータを集めた、という経緯があったが。
これで生まれたのが、TOTOの「傾斜吐水」だ。


伊奈製陶は、それより13年程先に、さらに凄い方法で位置を測定したらしい。
下半身裸の状態になり*1、柔らかめの粘土の上に腰掛け、その後石膏を流して固め・・・という手段で「尻型」を作ったとか。

この結果、生まれたのが、真下からの「垂直吐水」。


傾斜吐水の利点は、ノズルに洗浄時の汚水がかかりにくく、汚れにくいという点。洗浄感は、ソフトで繊細なものになる。
垂直吐水は、真下から突き上げるように強力な洗浄感が味わえる。これでINAXシャワートイレを好む人も多いらしく、自分もその一人だったりする。ただ、ノズルに洗浄時の汚水がかかるため、汚れやすいという欠点もある。

また、TOTOウォシュレットとINAXシャワートイレの違いとして、ノズルの駆動方式が異なっており、TOTOはモーターを用いてノズルを出し入れしているのに対し、INAXは伝統的に、水圧を用いて出し入れしている。
一見、水圧式のほうが故障も少なく、合理的になるようにも思われるが、そうではない。
まず、清掃のとき。TOTOの場合は「ノズル掃除」ボタンを押せばノズルが出てきて、触れずに歯ブラシなどで洗うことができるが、INAXの場合、「ノズルが出る=シャワーが出る」という動作のため、シャワーなしでノズルを出すことは無理。
ノズルの先端につまみ部が付いており、ここを摘んで出し入れするという形態。しかも、垂直吐水だからノズルは汚れやすい・・・

こういう所は、TOTOのほうが良いのは事実。

また、モーター駆動であるが故に自由に駆動でき、「ムーブ洗浄」や「洗浄位置」が行えるようになっているのも、TOTOならではの利点*2


プロジェクトXに洗脳されていたが、INAX社内では、TOTOより10年以上も早く、同様の開発が行われていたようで。

  • CMやポスター類

テレビCMに関しては「伊奈製陶がINAXに変わります」以降のものしかないが、ポスター類は、鳩マーク時代のものから収録されている。

「伊奈カスカディーナ」の宣伝文句は、この通り。

洗浄力アップで水量ダウン。水がかすか、音もかすかな節水消音式洋風便器。

というか、このカスカディーナが凄いわけで。

  • カスカディーナ誕生秘話

スウェーデンのIFO社と提携し、昭和49年に誕生した節水消音式洋風便器、カスカディーナ。モロに70年代のinaなデザインだが、これは、IFO製便器からのコピー。モデルチェンジを繰り返すたびに伊奈色が濃くなったが、最初期型は凄いデザイン。古いとか新しいとかの次元じゃない。ぶっ飛んでる。

ちなみにこの初期型、タンクが丸すぎたせいで温水洗浄便座が付けにくく、各社の温水洗浄便座カタログには必ず「INAX製旧カスカディーナには取り付けできません」という言葉が載っている問題機種だったりする。後に、シャワートイレF3とかの発売とほぼ同時にタンクは四角っぽい形状になるんだが。


名前は「カスケード(小さな滝)」+「伊奈」だが、音と水が「かすか」なことも掛けてあるらしい。へぇ。



ってか、カスカディーナって凄い便器だったわけで。洗浄水量4〜5リットルって一体。最新の節水型便器でも、6リットルなんだが。



うちの便所
ってそんな節水型だったのか。

あ、うち、カスカディーナなんですよ。マークはINAXになってるし、温水洗浄便座のためにタンクが四角っぽくなった奴だけど。

実際のところ、滅茶苦茶深い淵裏は掃除が大変だし、水漏れが起こっているようで節水どころじゃないが。
それに、節水のし過ぎなのか洗浄力が悪くて、便器全体に洗浄水が届かないから大変。やっぱりINAXはタイルの会社、便器はTOTOに限る、なんて思ってた所だが。

  • 80年代のシャワートイレの広告

伊奈製陶としては末期の、昭和59年頃の宣伝広告。

キャッチコピーを見て、普通に思った。

見あげた、おしりだ。
  真下から洗う、伊奈シャワートイレ。

とか

おしり後進国のみなさまへ。
 使ってみれば、なんでもないね。

とか。


明らかに、TOTOウォシュレットの「おしりだって洗ってほしい」を意識したコピーだ。多分、伊奈製陶としては悔しかったんだろうなぁ。苦し紛れに付けたコピーにしか思えない。

パクリ商品のくせに、宣伝ひとつで・・・


それでも、おそらく水道屋も伊奈製陶もそこそこ儲かったんじゃあなかろうか。伊奈製陶の特約店に行って「テレビでやってるトイレが欲しい」とか「『ウォシュレット』ってありますかぁ?」という客もいただろうし、そういう客のところに、伊奈シャワートイレを付ければいいわけだし。


事実、今でも、INAXショールームで「ウォシュレットを付けたい」という客もいるようで。


宣伝は怖い。

*1:女性社員には、「水着より薄い布」を着ていただいて実験したそうな。

*2:INAXにも「ワイド洗浄」や「ノズル位置」は付いているが、TOTOに比べると動きが悪く、使用感も良くない。